コレクターズアップデートvol,3

この度は、Edinburgh festival fringe 参加作品 “complex”にご支援くださいまして誠に有難う御座います。さて、3回目のコレクターズ限定アップデートです。今回は僕たちがエディンバラで上演する作品 ”complex” についてお話ししたいと思います。

僕はこれまで主にワンシチュエーションの現代口語演劇を発表してきました。例えばそれは、舞台上に病院の待合室を本物そっくりに作り、そこに出入りする人々の何気ない日常を描く群像劇です。しかし、それらの作品を海外で発表するには様々なハードルがあります。

まず、出演者。日本から多くの俳優を連れて行かなくてはならず、莫大な費用がかかります。同様に具象的で凝った舞台美術などは海外への運搬にも限度があります。ですが、もともと演劇とは不自由を逆手に取れる舞台芸術であり、限られた制限の中でいかに遊べるかが創り手として愉しめる大事な要素でもあるのです。

前回初めて参加した際に上演した「NEWS JUNKIE」同様、今回の「complex」も何もない素舞台に椅子とテーブルだけの非常にシンプルな独り芝居です。違うのは机の上に置かれた1台のmac bookだけ。今回はそのmacを使って”遊んで”みたいと思います。

50 minutes interview, which reveals the 38 years of one man’s life.

一人の男の38年間を暴き出す50分の面接。これが今回の”complex”のコピーです。物語は一人の男がチャット面接を受けるところから始まります。日本ではまだあまり馴染みがないかもしれませんが、海外では仕事の面接をチャットやテレビ電話などで行うことが一般的です。まずはチャットで軽い質疑応答などをし、最終的に会社へ出向き直接会って採用が決定するといった具合です。

この男もネット上で見つけた募集広告に応募し、チャット面接が行われることになりました。一方的に質問をする面接官。一向に仕事内容や給料などは教えてくれません。徐々に質問は男のプライベートな事に及んでいきます。家族の事、子供の頃の事…。男の人生が暴かれていき、丸裸にされていきます。それでも仕事が欲しいあまり、質問に答えていた男でしたが、やがて男は面接自体に疑問を抱き始めます。

「これは一体どんな仕事なのか?」「いや、そもそもこれは面接ではないんじゃないか?」「さっきから質問してくる面接官は本当に面接官なんだろうか?」「面接でないなら、いったいこれは…?」

様々な疑問が頭の中でぐるぐると回り、耐えられなくなった男はすべての疑問を面接官に問いただすのです。今回の作品は、昨年のエディンバラフェスティバルに参加する少し前に観たある動画がモチーフです。それは、アメリカのカード会社が母の日に実際に行った実験(いたずら)で、母親の「仕事」というものの大変さを再確認してほしいという意図で行われました。

実験自体は、非常に面白いもので効果的だとは思ったのですが、同時に僕には違和感がありました。確かに母親の「仕事」は大変な内容であることは事実です。しかし、それは「仕事」なのか?そもそも「仕事」ってなんだ?その動画の意図とは別に僕の頭の中では別の思考が動いていました。「仕事」の面接から「母親」はたまた「家族」というものを浮かび上がらせ、結果としてその男の「人生」を描けたら…。

ありきたりですが、人の数だけ人生があります。それは一つとして同じものがない独自の物語です。と、同時にそこに流れるピースは普遍的で、すべての人に共通するものだと思うのです。”complex”では面接という形を使って人間の本質を描きたいと思います。

エディンバラ渡航まであと2ヶ月。現在台本も大詰め。台本が出来上がった後には翻訳作業が待っています。そしてまた英語漬けの日々が…。次回のアップデートまでに台本が完成しているはずです。果たして。